
旭川市内から車で30分ほど、江丹別(えたんべつ)の静かな農村地帯を走っていると、全面道南杉の板張りに包まれた建物が現れます。

旭川グランドホテル(現omo7旭川)をはじめ、旭川市内の複数の店舗でシェフとして腕を磨いてきた嵯城要介(さじょうようすけ)さんが、家族とともに移住し、2018年に開いたレストラン兼自宅「Chirai(チライ)」です。
「Chirai」という名前の由来

店名の「Chirai」はアイヌ語で、幻の魚とも呼ばれる「イトウ」を意味します。イトウは北海道の清流に生息する日本最大の淡水魚で、その希少さから幻とも呼ばれる存在です。釣りをこよなく愛する嵯城さんにとって、イトウは特別な魚でした。渓流に立ち、大自然と向き合いながら糸を垂れる時間。その静けさと緊張感、そして自然への敬意が、Chiraiという店名に凝縮されています。

玄関ドアの取っ手には地元江丹別の白樺の枝が使われています。最初に店を訪れた人が必ず手を触れるドアの取っ手に、地元の木を使う。細部にまで土地と自然への敬意が宿る空間です。
旭川市街から江丹別へ。移住を決めた理由
嵯城さんは旭川グランドホテルをはじめ、旭川市内の数店舗でシェフとして勤務し、日本の食文化とフランス料理を融合させた料理、そしてベーカリーやスイーツにも精通する実力派のシェフです。料理人としての技術を磨きながら、いつかは自分の店を持ちたいという思いを温め続けていました。

家づくりを考え始めたとき、子育て環境の良さを最優先に考えた嵯城さんは、旭川市内だけでなく東川、当麻など旭川近郊のエリアも広く検討しました。その中で出会ったのが江丹別でした。

豊かな森と清流に恵まれた江丹別の自然環境は、釣りを愛する嵯城さんにとって理想的な土地でした。渓流釣りの舞台が生活圏にあり、四季の移ろいを間近に感じながら暮らせる。子どもたちが自然の中でのびのびと育てる環境でもありました。さらに自分のレストランを開く舞台としても、旭川市街とは異なる静かな農村の景観が、嵯城さんの料理の世界観と重なりました。
道南杉と白樺が生む外観と空間

外壁はすべて道南杉の板張りです。道南杉は北海道南部で育った木材で、経年とともに色が変化し、周囲の自然と調和しながら独自の表情を生み出していきます。竣工直後の明るい木の色から、年月を経てシルバーグレーへと変化していく外壁は、江丹別の農村風景にしっとりと溶け込んでいます。
晴れた日には広いウッドデッキで食事を楽しむことができます。愛犬と一緒に訪れることも歓迎で、農村の風景を眺めながらゆっくりと時間を過ごすことができます。
店内空間:ウェスタンレッドシダーと白樺が奏でるハーモニー

店内に入ると、天井一面のウェスタンレッドシダーの板張りが目に入ります。赤みを帯びた温かな色合いのウェスタンレッドシダーは、独特の芳香も持ち、空間に落ち着きと品格を与えています。天井の板張りのラインは、カウンターやベンチと同じ方向に走り、空間全体をシャープかつ統一感ある印象に仕上げています。


ベンチタイプの椅子には、北海道のシラカバを高度活用する産官学のグループ「白樺プロジェクト」が連携し、北海道大学の雨竜研究林から伐り出した木材が使われています。

白樺プロジェクトは、家具職人の鳥羽山聡さん、木こりの清水さん、アーケンの藤原社長らが参加する取り組みで、北海道に豊富に自生しながら十分に活用されてこなかった白樺の可能性を広げるプロジェクトです。嵯城さんのベンチは、そのプロジェクトの思いが形になったもののひとつです。
5.5メートルのカウンターに宿る、多くの人の思い

店内でひときわ存在感を放つのが、5.5メートルの大きなカウンターテーブルです。

家具職人、建築家、林業研究者、地元の生産者、学生、地域おこし協力隊員など、実に多くの人の力を借りて江丹別の山から木を伐り出し、丁寧に制作されました。

一枚のカウンターに、これほど多くの人の手と思いが重なっている。それ自体がChiraiという場所の象徴です。旭川・江丹別という土地の恵みを、地域に関わる多くの人たちと一緒に形にするというアーケンの姿勢が、このカウンターに凝縮されています。

自宅部分:家族の暮らしを支える住まい

Chiraiは店舗だけでなく、嵯城さんご家族の自宅も併設した店舗兼住宅です。子育て環境を最優先に考えて選んだ江丹別の地で、仕事と暮らしが同じ屋根の下にある生活が実現しました。

農村の豊かな自然を感じながら、家族が安心して暮らせる住環境と、嵯城さんの料理の世界観を体現できる店舗空間。この二つを一体として設計するのは、住宅と店舗の両方を多数手がけてきたアーケンだからこそ実現できた仕事です。

厨房の動線、店舗と住居の適切な分離、そして江丹別の景観に馴染む外観デザイン。嵯城さんの要望をすべて汲み取りながら、アーケン・藤原社長が丁寧に設計しました。
Chiraiをきっかけにアーケンを知っていただいた方も

Chiraiが完成した2018年以来、この場所はアーケンにとって特別な意味を持ち続けています。東川PERICANの佐野さん、Tam Jamの田向さんなど、後にアーケンに店舗設計を依頼した移住オーナーたちが「最初にChiraiを訪れてアーケンを知った」と口を揃えます。
藤原社長は移住を検討する方と話すとき、まずChiraiへ案内することがあります。江丹別の自然の中で、地元の素材と多くの人の思いが重なり合ってできた空間を体感してもらうことが、アーケンの仕事を伝える一番の近道だからです。
料理人がこだわりの店を持ちたい、移住して自分らしい暮らしを始めたい。そうした夢を持つ方にとって、Chiraiを訪れることが最初の一歩になるかもしれません。
レストランChirai(チライ)
所在地:北海道旭川市江丹別町
※営業日時は公式情報をご確認ください
